木村がコラムを書くとマウスの動きが変わる [ その他サッカー ]
スポナビで連載中の木村浩嗣の「誘惑と憂鬱のスペインサッカー」。
今私が一番好きなコラムである。
毎回楽しく読ませてもらっているが、この人のコラムのポイントは”詳細”、”具体的”。
詳細と言っても試合経過を詳細に追うのではない。
例えば、その試合が何故そのような試合展開になったのか?
勝敗の分かれ目はどの辺にあったのか?
活躍した選手の凄いところはどんなところか?
を、詳細にかつ具体的に分析するのである。
少し前になるが、UEFAチャンピオンズリーグ決勝トーナメント1回戦第1戦チェルシー対バルセロナの
モリーニョとライカールトの試合中の采配についての分析は本当に面白い。
木村氏は、カテゴリーはトップチームではないが本職は監督である。
文筆家としてはプロではない(対価はもらっているだろうが、それで飯を食ってはいない)。
だが彼のコラムを読む度に、文筆家として最も大事なものは、
伝えたいという衝動なのである、と実感させられる。
衝動は怒りによって喚起させられたものであってもいいが、
読む側としてはやはり、感動、畏敬、賞賛、などによって喚起させられたものならばなお良い。
その文章によって読み手は書き手の感情を分け合う。
分け合う感情は怒りよりも感動の方がそりゃ良いに決まってる。
そこで今回のコラムアーセナル対ビジャレアルの7つのポイントだが、
まず「1:アーセナルの全員攻撃、全員守備の驚異」がおもしろい。
アーセナルも凄いが、日本のサッカーファンなら思い出すのがジェフ千葉だろう。
オシムは走ることは戦術(木村の言葉で言えば戦略)以前である(もちろん個人技でもない)と言うが
目指すところは同じなのではないだろうか。
「5:セスクがボールを持つと周りの動きが変わる」もいい。
”セスクがボールを持った時”の一瞬における、詳細かつ具体的な分析。
素晴らしい選手セスクに対する賞賛は読んでいて気持ちがいい。
スペインで監督業をしている木村氏が、セスクの順調な成長を願って、
帰って来て欲しくないと述べるくだりでは笑ってしまった。
スペインに対する厳しい言葉は、愛情の裏返しだ。
日本にはそれで飯を食っているくせに、毒にも薬にもならないコラムを書く人間が多過ぎる。
サッカー中継における解説も同様だ。
全員が木村レベルとは行かないまでも、文筆家として批評家として向上していって欲しいものだ。
もちろん我々読み手も、批評家を批評し、安穏としてはいられない雰囲気を作る必要がある。